毎朝同じ時間に起きているのに、なぜか自分だけ頭が働き出すのが遅い。逆に夜になると急に調子が出てくる——それを「だらしない」「根性が足りない」で片づけてきた人は多いはずです。
2019年、69万人以上のゲノムデータを解析した研究が『Nature Communications』誌に発表されました。「朝型かどうか」に関わる遺伝子座(いでんしざ=DNA上の特定の場所)が351個特定されたのです。さらに複数の双子研究では、朝型・夜型の個人差のおよそ半分近くが遺伝要因で説明されるという結果も出ています。
「早起きは三文の徳」と言われても実践できないのは、根性の問題だけではなさそうです。研究の中身と、そこから導ける現実的な工夫まで見ていきましょう。
なぜ「朝型・夜型」に個人差があるのか
私たちの体には、およそ24時間周期で体温やホルモン分泌、眠気を調整する体内時計(概日リズム=サーカディアンリズム)が備わっています。この体内時計が「いつ眠くなり、いつ活動的になるか」を決めており、その現れ方の個人差を研究ではクロノタイプ(chronotype=時間型)と呼びます。
長らく、朝型・夜型は生活習慣や気合いの問題だと考えられがちでした。しかし体内時計そのものを動かしているのは、細胞の中で時を刻む「時計遺伝子」という一群の遺伝子です。この時計遺伝子に個人差があれば、体内時計が刻む周期の長さや、光への反応の仕方にも差が出てもおかしくありません。この仮説を、大規模データで検証したのが今回の研究です。
実験:69万人分のゲノムを解析した研究
紹介するのは、エクセター大学のSamuel E. Jonesらの研究チームが2019年に発表したゲノムワイド関連解析(GWAS=Genome-Wide Association Study。ゲノム全体を調べ、特定の体質と統計的に関連する遺伝子の場所を探す手法)です。
解析対象は、イギリスの大規模バイオバンクであるUK Biobankの参加者と、遺伝子検査サービス23andMeの利用者を合わせた697,828人。参加者は「自分は朝型か夜型か」を尋ねる質問に回答しており、その回答とゲノム全体の遺伝的な変異(一塩基多型=SNP)との関連を統計的に調べました。
さらに研究チームは、そのうち85,760人について、手首につける活動量計で実際の睡眠のタイミングを客観的に測定したデータも解析に加えています。「自分は朝型だと思う」という自己申告だけでなく、実際に何時に眠りについているかまで確認できたのが、この研究の強みです。
結果:遺伝子座351個、そして実際の"25分の差"
解析の結果、朝型であることに関連する遺伝子座は、それまでに知られていた24個から一気に351個に増えました。これらの遺伝子は、体内時計そのものの調整に関わる経路のほか、cAMP・グルタミン酸・インスリンのシグナル伝達に関わる経路や、網膜・脳幹・視床下部・下垂体で働く遺伝子に集中していたと報告されています。
そして、活動量計のデータで確認された数値がこちらです。モーニング型に関わる遺伝的な変異を多く持つ上位5%の人は、少ない下位5%の人に比べて、平均して25分早く眠りについていたと報告されています。アンケートの自己申告だけでなく、実際の行動データにも差が表れていたことになります。
もうひとつ興味深いのが、メンデル無作為化(Mendelian Randomisation=遺伝的な変異を手がかりに、単なる相関ではなく因果関係に近いものを推定する統計手法)を使った分析です。これによると、朝型であることはメンタルヘルスの良好さと因果的に関連している可能性が示された一方、肥満度(BMI)や2型糖尿病のリスクとの明確な関連は見られなかったと報告されています。
なぜこうなるのか:遺伝子は体内時計の"設計図"
体内時計を動かしているのは、細胞の中で約24時間の周期を刻む「時計遺伝子」のネットワークです。これまでの関連研究では、PER2・PER3・RGS16といった、体内時計の中核部品として知られる遺伝子の近くに、朝型・夜型と関連する変異が繰り返し見つかっています。
例えるなら、すべての人が同じ設計の掛け時計を持っているものの、工場出荷の時点でわずかにゼンマイの巻き方が違うようなイメージです。ある人の時計は少し早めに時を刻むように調整され、別の人の時計は少し遅めに調整されている。だからこそ、同じ「朝7時に起きる」という行為でも、人によって体感の負担がまったく違うのです。
そして、この"工場出荷時の設定"がどれくらい個人差を生んでいるのかを調べたのが、双子を対象にした研究です。一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)と二卵性双生児(遺伝子の共有率が約半分)を比較することで、朝型・夜型の個人差のうちどれだけが遺伝で説明できるかを統計的に推定できます。フィンランドの双子8,753組を対象にしたKoskenvuoら(2007)の研究では、遺伝率(集団内のばらつきのうち遺伝要因が占める割合)は49.7%と推定されました。オランダの双子家族を対象にしたVinkら(2001)でも、世代によって44〜47%という近い数値が出ています。
この話、こう使える
遺伝率がおよそ半分ということは、裏を返せば残り半分は環境の影響を受ける余地があるということです。研究結果を日常にどう落とし込めるか、3つの視点でまとめます。
光を浴びるタイミングは、体内時計を調整する代表的な合図(ツァイトゲーバー)として知られています。時計遺伝子の中には光への感受性に関わるものも報告されており、朝の光を浴びる習慣は体内時計を前進させる(=早寝早起き方向にずらす)手がかりになると考えられています。逆に、就寝前の強い光(スマホの画面など)は後退させる方向に働きます。無理に「明日から朝型人間になる」と決意するより、朝起きたらすぐカーテンを開けるといった小さな環境調整のほうが、体内時計には効きやすい可能性があります。
もうひとつ、当サイトのテーマである英語学習にも応用できる視点があります。自分の頭が一番冴えている時間帯——朝型なら起床後の数時間、夜型なら夕方以降——に、暗記や瞬間英作文のような集中力を要するタスクを配置する。逆に、頭が働きにくい時間帯はリスニングの聞き流しなど負荷の軽いタスクに回す。学習量を増やす前に、まず配置を変えるだけでも効率は変わります。学習メニューの組み方は英会話の独学ロードマップで詳しく扱っていますし、瞬間的に英作文を組み立てる力を試したい人は瞬間英作文トレーニングも参考にしてください。
注意点:この研究の限界
- 解析対象がヨーロッパ系の集団に偏っている。 UK Biobankと23andMeの参加者は、その多くが欧州系の遺伝的背景を持つ人々です。日本人を含む他の集団でも同じ遺伝子座が同じように働くかは、追加の検証が必要です。
- クロノタイプの測定方法が簡易的。 主要な解析は「自分は朝型か夜型か」という1問のアンケートに基づいています。活動量計データによる裏付けはあるものの、脳波や体温リズムなど生理指標による厳密な測定とは異なります。
- 因果関係の解釈には慎重さが必要。 メンデル無作為化はランダム化比較試験に近い推定を可能にする手法ですが、絶対的な証明ではありません。「朝型になればメンタルヘルスが良くなる」と単純に読み替えるのは早計です。
- クロノタイプは年齢でも変化する。 一般に思春期は夜型に傾き、高齢になるほど朝型に傾く傾向が報告されています。遺伝的な傾向はあくまで土台であり、固定された運命ではありません。
睡眠や気分の不調が続く場合、原因を体内時計の個人差だけに求めず、心配な症状があれば医療機関に相談することをおすすめします。
よくある質問
今日の3行まとめ
双子研究では、朝型・夜型の個人差のおよそ40〜50%が遺伝要因と推定されている。
朝が弱いのは意志より体質の影響が大きいかもしれない。責めるより、自分の体内時計に合わせた工夫を。
自分の頭が冴えている時間帯を学習に活かしたい人は、英会話の独学勉強法もあわせてどうぞ。ほかの科学ネタはサイエンスラボの記事一覧からまとめて読めます。
参考文献
- Jones, S. E., et al. (2019). Genome-wide association analyses of chronotype in 697,828 individuals provides insights into circadian rhythms. Nature Communications, 10, 343. 論文を見る
- Koskenvuo, M., Hublin, C., Partinen, M., Heikkilä, K., & Kaprio, J. (2007). Heritability of diurnal type: a nationwide study of 8753 adult twin pairs. Journal of Sleep Research, 16(2), 156–162. 論文を見る
- Vink, J. M., Groot, A. S., Kerkhof, G. A., & Boomsma, D. I. (2001). Genetic analysis of morningness and eveningness. Chronobiology International, 18(5), 809–822. 論文を見る
- Burns, A. C., et al. (2022). Genome-wide gene by environment study of time spent in daylight and chronotype identifies emerging genetic architecture underlying light sensitivity. Sleep, 45(9). 論文を見る