タイムラインに流れてきた、信じがたいニュース。あなたがそれを疑って裏取りを終える頃には、すでに何千人もの手に渡って広まり終えている——そんな経験はないでしょうか。
これは気のせいではありません。MITの研究チームがTwitter(現X)上の12万6千件のニュースを10年以上かけて追跡した研究では、偽情報は真実よりも速く・広く・深く拡散することが、あらゆるジャンルで確認されました。しかもその差を生んでいたのは、自動化されたボットではなく人間だったと報告されています。
なぜ私たちは、ウソのほうを拡散させてしまうのか。3本の論文から、その仕組みを読み解いていきます。
なぜ「ウソのほうが広まりやすい」と確かめるのが難しいのか
「デマは広まりやすい」という感覚は、昔からよく語られてきました。しかし、それを数字で証明するのは簡単ではありません。何が真実で何が偽情報かを大量に、かつ客観的に判定する必要がありますし、個々の投稿を追いかけるだけでは「広がり方」そのものを測ることができないからです。
この壁に正面から挑んだのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)のSoroush Vosoughi、Deb Roy、Sinan Aralのチームが2018年に『Science』誌に発表した研究でした。SNS上で情報が人から人へと伝わっていく連なりを「カスケード(cascade)」と呼び、その形と速さを定量的に比較するという方法です。
実験:12万6千件のニュースカスケードを10年分追跡
研究チームは、2006年から2017年までの11年間にTwitter上で広まった、検証済みのニュースのツイートをすべて収集しました。対象は約12万6千件のニュースカスケード。これらは延べ約300万人によって450万回以上ツイートされたものです。
ポイントは、どのニュースが「真実」でどれが「偽情報」かを、研究チームの主観では決めていないことです。6つの独立したファクトチェック団体(PolitiFact、Snopesなど)の判定結果を使い、それらの団体間で95〜98%という高い一致率が確認された判定だけを採用しています。
そのうえで、それぞれのニュースが「何人に」「どれくらいの速さで」「どれだけ深い連鎖(リツイートのリツイートのリツイート…)として」広まったかを、政治・都市伝説・ビジネス・テロ・科学・娯楽・自然災害という複数のジャンルに分けて比較しました。
結果:偽情報はあらゆる面で真実を上回った
結果は一貫していました。偽情報は、真実の情報よりも速く、広く、深く拡散していたのです。しかもこの差は、調べたすべてのジャンルで見られましたが、とりわけ政治に関する偽情報で最も顕著でした。
具体的な数字として、論文では次のようなことが報告されています。
| 指標 | 偽情報 | 真実の情報 |
|---|---|---|
| リツイートされる確率 | 真実より約70%高い | 基準 |
| 1,500人に届くまでの速さ | 基準(最速) | 約6倍の時間 |
| 拡散の深さ・広さ | すべてのカテゴリで真実を上回る | — |
さらに興味深いのは、拡散の「深さ」です。偽情報のカスケードは、リツイートのリツイートがさらにリツイートされる、という連鎖が真実よりも深く・速く育っていました。研究チームはこの結果を、偽情報は真実よりも新奇性(ノベルティ=目新しさ)が高いと評価されやすく、人はその目新しさに反応して拡散してしまうのではないか、という仮説で説明しています。実際、偽ニュースへの返信には、驚き・恐怖・嫌悪といった感情を示す言葉が真実への返信より多く含まれていたことも報告されています。
なぜ人はウソのほうを拡散してしまうのか
「新奇性に反応する」というだけでは、まだ半分の説明にすぎません。実際にシェアボタンを押させているのは何なのか——これを掘り下げた2つの研究があります。
ひとつは、ニューヨーク大学のWilliam J. Brady、Jay J. Van Bavelらが2017年に『PNAS』誌で発表した研究です。銃規制・同性婚・気候変動という3つの政治トピックについて、56万3千件の投稿を分析したところ、道徳的な怒りや非難を含む「道徳的感情語」が1語増えるごとに、リツイートされる確率が約20%上昇するという関係が見つかりました。ただしこの効果は、自分と似た立場のネットワーク内で特に強く、異なる立場のネットワーク間ではずっと小さいことも分かっています。つまり「正しい怒り」を表明する投稿は、同じ意見の人たちの間で強く増幅されるのです。
もうひとつは、ペンシルベニア大学のJonah Berger、Katherine L. Milkmanが2012年に『Journal of Marketing Research』誌で発表した研究です。ニューヨーク・タイムズの記事を分析したところ、シェアされやすさを左右していたのは「ポジティブかネガティブか」よりも「感情の覚醒度(興奮度)」でした。畏敬(すごい、という感動)・怒り・不安のような覚醒度の高い感情を呼び起こす記事はよくシェアされた一方、悲しみのような覚醒度の低い感情を呼び起こす記事はシェアされにくかったのです。
この話、こう使える
研究が教えてくれるのは「拡散しやすい情報の特徴」です。これを知っておくだけで、自分がウソを広める側に回るリスクを減らせます。
- 強い感情が動いた投稿ほど、一呼吸置く。 怒り・驚き・不安を感じた瞬間こそ、まさに研究が「拡散しやすい」と示した条件に当てはまっています。リツイートボタンを押す前に、発信元と日付を確認する習慣を。
- 「初めて見る話」ほど疑ってみる。 新奇性は拡散力を持ちますが、同時に「裏が取れていない」サインでもあります。
- 真実は"遅い"と心得ておく。 訂正や検証記事は、往々にして最初の話より遅れて、地味な形で出てきます。騒ぎが大きかった話題ほど、数日後の続報も確認する価値があります。
英語のニュースや海外のSNSに触れる機会が増えている人にとっても、この視点は役立ちます。毎日の英語コラムで海外ニュースの一次情報に触れる練習をしたり、AIで英語を学ぶで紹介しているように、AIが生成した要約や翻訳をそのまま鵜呑みにしない姿勢も、根っこは同じ話です。
注意点:この研究の限界
- ファクトチェックの一致率は95〜98%であり、100%ではありません。判定が割れたごく一部のニュースは分析から除かれています。
- Bradyらの研究は3つの政治トピックに限定されています。道徳的感情語の効果が、政治以外の話題や、意見が対立するネットワーク間でも同じ大きさで働くとは報告されていません。むしろ、立場の異なる相手の間では効果はずっと小さいとされています。
- Berger&Milkmanの研究対象はニューヨーク・タイムズの記事であり、SNSの投稿そのものを直接分析したものではありません。ニュース記事のシェアされやすさに関する知見として読む必要があります。
- 相関と因果を混同しない。 Vosoughiらの分析は大規模な観察データが中心で、「感情語を足せば拡散する」という因果関係まで厳密に証明したものではありません(Berger&Milkmanは実験的な検証も行っています)。
よくある質問
今日の3行まとめ
差を生んでいるのはボットではなく人間で、新奇性・強い感情・道徳的な言葉が拡散の引き金になっている。
強く感情が動いた投稿ほど、シェアする前に一呼吸置く——それだけで拡散に加担するリスクは減らせます。
情報との向き合い方を見直したい人は、英語の雑学・豆知識で、裏取りされた「話したくなるネタ」との付き合い方に触れてみるのもおすすめです。
AIが生成した要約や翻訳にも、同じ「もっともらしさの罠」が潜みます。使えるプロンプトと、任せてはいけないことをまとめました。
AIで英語を学ぶガイドを読む →参考文献
- Vosoughi, S., Roy, D., & Aral, S. (2018). The spread of true and false news online. Science, 359(6380), 1146–1151. 論文を見る
- Brady, W. J., Wills, J. A., Jost, J. T., Tucker, J. A., & Van Bavel, J. J. (2017). Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(28), 7313–7318. 論文を見る
- Berger, J., & Milkman, K. L. (2012). What Makes Online Content Viral? Journal of Marketing Research, 49(2), 192–205. 論文を見る