タイムラインに流れてきた、信じがたいニュース。あなたがそれを疑って裏取りを終える頃には、すでに何千人もの手に渡って広まり終えている——そんな経験はないでしょうか。

これは気のせいではありません。MITの研究チームがTwitter(現X)上の12万6千件のニュースを10年以上かけて追跡した研究では、偽情報は真実よりも速く・広く・深く拡散することが、あらゆるジャンルで確認されました。しかもその差を生んでいたのは、自動化されたボットではなく人間だったと報告されています。

なぜ私たちは、ウソのほうを拡散させてしまうのか。3本の論文から、その仕組みを読み解いていきます。

"Falsehood flies, and the Truth comes limping after it."
嘘は飛ぶように広まり、真実はそのあとを足を引きずってついてくる。
アイルランドの作家ジョナサン・スウィフトが1710年に発表した評論『The Examiner』第14号に残した一節です。SNSはおろか新聞すら今とは違う時代に書かれた言葉ですが、300年以上たった今回紹介する研究が、この直感をデータで裏づけることになりました。
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なぜ「ウソのほうが広まりやすい」と確かめるのが難しいのか

「デマは広まりやすい」という感覚は、昔からよく語られてきました。しかし、それを数字で証明するのは簡単ではありません。何が真実で何が偽情報かを大量に、かつ客観的に判定する必要がありますし、個々の投稿を追いかけるだけでは「広がり方」そのものを測ることができないからです。

この壁に正面から挑んだのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)のSoroush Vosoughi、Deb Roy、Sinan Aralのチームが2018年に『Science』誌に発表した研究でした。SNS上で情報が人から人へと伝わっていく連なりを「カスケード(cascade)」と呼び、その形と速さを定量的に比較するという方法です。

実験:12万6千件のニュースカスケードを10年分追跡

研究チームは、2006年から2017年までの11年間にTwitter上で広まった、検証済みのニュースのツイートをすべて収集しました。対象は約12万6千件のニュースカスケード。これらは延べ約300万人によって450万回以上ツイートされたものです。

ポイントは、どのニュースが「真実」でどれが「偽情報」かを、研究チームの主観では決めていないことです。6つの独立したファクトチェック団体(PolitiFact、Snopesなど)の判定結果を使い、それらの団体間で95〜98%という高い一致率が確認された判定だけを採用しています。

そのうえで、それぞれのニュースが「何人に」「どれくらいの速さで」「どれだけ深い連鎖(リツイートのリツイートのリツイート…)として」広まったかを、政治・都市伝説・ビジネス・テロ・科学・娯楽・自然災害という複数のジャンルに分けて比較しました。

💡 なぜボットの影響を除外できたのか 研究チームは、ボットらしき挙動を示すアカウントを機械学習で検出したうえで、それらを除いても同じ傾向が残ることを確認しています。「ボットのせいで差が出ている」という解釈をつぶしたうえで出された結論だという点が重要です。

結果:偽情報はあらゆる面で真実を上回った

結果は一貫していました。偽情報は、真実の情報よりも速く、広く、深く拡散していたのです。しかもこの差は、調べたすべてのジャンルで見られましたが、とりわけ政治に関する偽情報で最も顕著でした。

具体的な数字として、論文では次のようなことが報告されています。

指標偽情報真実の情報
リツイートされる確率真実より約70%高い基準
1,500人に届くまでの速さ基準(最速)約6倍の時間
拡散の深さ・広さすべてのカテゴリで真実を上回る—
図1:同じ人数(1,500人)に届くまでにかかった時間の比較
1倍(最速) 約6倍 偽情報 真実の情報 最速で1,500人に到達 同じ人数に届くまで6倍遅い 遅い 速い
偽情報が1,500人に届く速さを基準(1倍)にすると、真実の情報が同じ規模に届くには約6倍の時間がかかった。
出典:Vosoughi, Roy & Aral (2018, Science)の報告をもとに作図

さらに興味深いのは、拡散の「深さ」です。偽情報のカスケードは、リツイートのリツイートがさらにリツイートされる、という連鎖が真実よりも深く・速く育っていました。研究チームはこの結果を、偽情報は真実よりも新奇性(ノベルティ=目新しさ)が高いと評価されやすく、人はその目新しさに反応して拡散してしまうのではないか、という仮説で説明しています。実際、偽ニュースへの返信には、驚き・恐怖・嫌悪といった感情を示す言葉が真実への返信より多く含まれていたことも報告されています。

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なぜ人はウソのほうを拡散してしまうのか

「新奇性に反応する」というだけでは、まだ半分の説明にすぎません。実際にシェアボタンを押させているのは何なのか——これを掘り下げた2つの研究があります。

ひとつは、ニューヨーク大学のWilliam J. Brady、Jay J. Van Bavelらが2017年に『PNAS』誌で発表した研究です。銃規制・同性婚・気候変動という3つの政治トピックについて、56万3千件の投稿を分析したところ、道徳的な怒りや非難を含む「道徳的感情語」が1語増えるごとに、リツイートされる確率が約20%上昇するという関係が見つかりました。ただしこの効果は、自分と似た立場のネットワーク内で特に強く、異なる立場のネットワーク間ではずっと小さいことも分かっています。つまり「正しい怒り」を表明する投稿は、同じ意見の人たちの間で強く増幅されるのです。

もうひとつは、ペンシルベニア大学のJonah Berger、Katherine L. Milkmanが2012年に『Journal of Marketing Research』誌で発表した研究です。ニューヨーク・タイムズの記事を分析したところ、シェアされやすさを左右していたのは「ポジティブかネガティブか」よりも「感情の覚醒度(興奮度)」でした。畏敬(すごい、という感動)・怒り・不安のような覚醒度の高い感情を呼び起こす記事はよくシェアされた一方、悲しみのような覚醒度の低い感情を呼び起こす記事はシェアされにくかったのです。

図2:「ただの情報」と「拡散しやすい情報」の違い
❶ 淡々とした情報 ふつうの投稿 ゆっくり拡散 ❷ 新奇性・高覚醒の感情・道徳的な言葉 驚き・怒り・不安 を含む投稿 速く・広く 拡散 ※ Brady et al. (2017)・Berger & Milkman (2012) の知見をもとにしたイメージ図(実測値ではありません)
目新しさ・強い感情・道徳的な言葉が乗った情報ほど、同じ人数のフォロワーを持つアカウントから発信されても速く広く拡散する。
研究で報告されている傾向をもとにしたイメージ図
🧠 ざっくり言うと 偽情報が広まりやすいのは、嘘だからではありません。目新しく・驚きや怒りを呼び起こし・道徳的に感じられるように作られやすいからです。真実は事実関係に縛られる分、どうしてもこの3条件を満たしにくいというハンデを背負っています。

この話、こう使える

研究が教えてくれるのは「拡散しやすい情報の特徴」です。これを知っておくだけで、自分がウソを広める側に回るリスクを減らせます。

英語のニュースや海外のSNSに触れる機会が増えている人にとっても、この視点は役立ちます。毎日の英語コラムで海外ニュースの一次情報に触れる練習をしたり、AIで英語を学ぶで紹介しているように、AIが生成した要約や翻訳をそのまま鵜呑みにしない姿勢も、根っこは同じ話です。

注意点:この研究の限界

⚠️ 「SNS全般の話」と決めつけない Vosoughiらの研究はTwitter(現X)の2006〜2017年のデータです。現在のアルゴリズムや、TikTok・Instagramのような異なる構造を持つプラットフォームでも同じ比率が成り立つとは限りません。

よくある質問

偽情報が拡散するのは、ボット(自動アカウント)のせいではないのですか?
そう思いたくなりますが、Vosoughiらの研究では逆の結果が出ています。ボットは真実のニュースも偽のニュースも、ほぼ同じ速さ・同じ割合で拡散していました。偽情報のほうが速く広まる差を生んでいたのは、ボットではなく人間のアカウントだったのです。つまり「悪いボットが拡散させている」と他人事にはできない、というのがこの研究のもう一つの核心です。
真実のニュースは結局、まったく広まらないのですか?
広まらないわけではなく、「遅い」のです。論文では、偽情報が1,500人に届くまでの速さに対し、真実のニュースが同じ規模に届くにはその約6倍の時間がかかったと報告されています。最終的にそれなりの人数には届くものの、SNSの情報が次々に流れていく速さを考えると、6倍遅いというのは致命的なハンデです。真実は"着実"だが"遅い"、偽情報は"不正確"だが"速い"、という対比です。
怒りや驚きを感じる投稿を見たら、どうすればいいですか?
それこそが「拡散しやすい情報」の典型的なサインだと知っておくことが対策になります。Bradyらの研究、Berger&Milkmanの研究のどちらも、道徳的な怒りや高覚醒の感情(怒り・恐怖・驚き)を刺激する投稿ほど拡散しやすいと報告しています。感情が強く動いたと感じたときほど、リツイートボタンを押す前に一呼吸置いて発信元を確認する価値があります。

今日の3行まとめ

📌 これだけ持ち帰ってください 偽情報は真実よりリツイートされる確率が約70%高く、同じ人数に届く速さも約6倍。
差を生んでいるのはボットではなく人間で、新奇性・強い感情・道徳的な言葉が拡散の引き金になっている。
強く感情が動いた投稿ほど、シェアする前に一呼吸置く——それだけで拡散に加担するリスクは減らせます。

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参考文献