「二日酔いは脱水のせい。だから寝る前に水をたくさん飲めば防げる」——そんな説を聞いたことがある人は多いはずです。実際、頭痛や倦怠感の一部は脱水でも説明できます。しかし研究者たちが二日酔いを調べれば調べるほど浮かび上がってきたのは、脱水だけでは片づかない、もうひとつの仕組みでした。

近年の研究が注目しているのは免疫システムの反応です。飲酒後に体内の炎症性物質が増えること、そして睡眠の質が大きく乱れることが、翌日のつらさと結びついているという報告が相次いでいます。しかもコンジナーと呼ばれる副生成物の多い酒ほど「主観的なつらさ」は増すのに、脳のパフォーマンス低下そのものは酒の種類を問わず同じくらい起きているという、ちょっと意外な結果も出ています。

二日酔いという誰もが一度は経験するはずの現象が、科学的にはまだ全容の解明されていない不思議なテーマだということを、4本の論文から見ていきましょう。

スポンサーリンク

なぜ二日酔いは「脱水」や「毒素」のせいだと思われてきたのか

二日酔い(ハングオーバー)の一般的なイメージは、シンプルです。アルコールには利尿作用があるので体から水分が失われる。加えて肝臓で分解しきれないアセトアルデヒド(アルコールが分解される過程でできる、頭痛や吐き気の原因とされる物質)が体内に残る。この2つで頭痛・のどの渇き・だるさを説明する——という筋書きです。

ところが、この説明にはいくつか都合の悪い事実があります。ひとつは、血中アルコール濃度が同じでも、翌日のつらさには大きな個人差があること。同じ量を飲んで同じくらい酔っても、翌朝ぴんぴんしている人もいれば、寝込んでしまう人もいます。もうひとつは、アセトアルデヒドは通常、飲酒後数時間でほとんど分解され切ってしまうのに、二日酔いの症状はそのあとも半日近く続くことがある点です。「毒素が残っているから」という単純な説明では、時間のズレをうまく説明できません。

こうした食い違いから、研究者たちは免疫系の反応睡眠の乱れという、もう2つの経路に注目するようになりました。

実験:二日酔いを4つの角度から調べた研究

まず酒の種類による違いを調べたのが、米ブラウン大学のRohsenowらが2010年に『Alcoholism: Clinical and Experimental Research』誌に発表した実験です。21〜33歳の健常な大量飲酒者95人を対象に、順応日をはさんで2晩の飲酒セッションを実施。1晩はバーボン(コンジナーが多い蒸留酒)、もう1晩はウォッカ(コンジナーが少ない蒸留酒)を、呼気アルコール濃度の平均値が同じ水準(0.11%)になるまで飲んでもらい、別の日にはプラセボ(偽の酒)も飲ませて比較しました。コンジナーとは、発酵・熟成の過程でアルコールと一緒にできる微量の副生成物の総称で、酒の色や香りのもとにもなっています。夜間はポリソムノグラフィ(脳波などで睡眠の質を記録する検査)で眠りの状態も測定されました。

次に、免疫系の反応を調べたのがオランダ・ユトレヒト大学のvan de Looらの研究です。2021年に『Healthcare』誌に発表されたこの実験は、18〜30歳の健康な社会的飲酒者36人を対象に、飲酒しなかった日(対照日)普段どおりに飲酒した翌日(飲酒後日)の唾液サンプルを比較する準ナチュラリスティック・デザイン(実験室ではなく、普段の生活に近い条件で行う研究手法)を採用しました。唾液中のサイトカイン(免疫細胞が分泌する、炎症の指令を出すタンパク質)のうちIL-6・IL-10などの濃度を、二日酔いになりやすい人・なりにくい人で比較しています。

さらに睡眠との関係を調べたのが、オーストラリア・スインバーン工科大学のAyreらが同じく2021年に『Journal of Clinical Medicine』誌で発表した研究です。繁華街から帰る途中の飲酒者99人に声をかけて呼気アルコール濃度を測定し、翌朝オンラインで二日酔いの症状・前夜の睡眠の質を回答してもらったうえで、注意力や処理速度を測るトレイルメイキングテスト(数字と文字を交互に線でつなぐ課題)を受けてもらう、という現場に近い調査です。

図1:バーボンとウォッカの"コンジナー(副生成物)"含有量の違い
1倍(基準) 約37倍 ウォッカ バーボン 多い 少ない
コンジナーの少ない酒(ウォッカ・ジンなど)と、多い酒(バーボン・ウイスキー・赤ワインなど熟成タイプ)とでは、含有量に大きな差がある。
出典:Rohsenow et al. (2010) の報告(バーボンのコンジナー含有量はウォッカの約37倍)をもとに作図
スポンサーリンク

結果:「量」より「炎症」と「睡眠の乱れ」が症状の大きさに関わっていた

まずRohsenowらの実験です。同じ血中アルコール濃度まで飲んでも、バーボンを飲んだ翌朝のほうがウォッカより二日酔いの自己評価スコアが有意に高かったと報告されています。ところが、注意力や記憶を測る神経認知テストの成績は、バーボンでもウォッカでも同じくらい低下していました。つまりコンジナーの量は「どれだけつらく感じるか」には影響しても、「脳のパフォーマンスがどれだけ落ちるか」にはほとんど関係していなかった、という食い違いが見られたのです。

次にvan de Looらの免疫の実験です。対照日と比べて、飲酒した翌日は唾液中のIL-6とIL-10という炎症性サイトカインの濃度が有意に上昇していたと報告されています。これらは体が細菌やウイルスと戦うときにも増える物質で、風邪をひいたときの倦怠感・頭痛・集中力の低下といった症状を引き起こす役割も担っています。二日酔いのだるさや頭の重さが、風邪のときの不調とどこか似ているのは偶然ではないのかもしれません。

そしてAyreらの睡眠の調査では、夜間に目が覚めた回数や時間、睡眠の質、総睡眠時間が、いずれも二日酔いの症状の重さと関連していたと報告されています。さらに二日酔いの重さは、翌日のトレイルメイキングテストの所要時間のばらつきのうち、およそ11%を説明するという結果も示されました。決して大きすぎる数字ではありませんが、「眠れているかどうか」が翌日の頭の働きにまで影響することを示す数値です。

なぜこうなるのか

これらの結果をつなげると、二日酔いは単一の原因ではなく、複数の経路が重なって起きる現象だと理解できます。

まず免疫系の経路です。アルコールとその代謝物は、腸のバリア機能を弱めたり、体内の免疫細胞を刺激したりすることで、炎症性サイトカインの分泌を促すと考えられています。風邪をひいたときに体がだるく感じるのは、ウイルスそのものよりも、ウイルスと戦うために免疫系が出す物質が脳に働きかけているからだ、という仕組み(病気行動=sickness behaviorと呼ばれます)が知られていますが、二日酔いにも似た仕組みが関わっている可能性が指摘されています。

もうひとつが睡眠の経路です。アルコールには寝つきを良くする作用がある一方で、眠りが浅くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることが、複数の研究で報告されています。せっかく寝ても質の良い睡眠が取れていなければ、疲労は回復しないまま朝を迎えることになります。

🧠 たとえるなら「二正面作戦」 二日酔いの朝の体は、①免疫システムが臨戦態勢に入って炎症物質を出している状態と、②満足に休めていない状態という、2つの負荷を同時に抱えています。コンジナーの多い酒は①をより強く刺激しやすいと考えられており、コンジナーの少ない酒に変えても②の負荷までは消えない——だからウォッカに変えても神経認知テストの成績は変わらなかった、という説明が成り立ちます。
図2:二日酔いが起きるまでの、2つの経路(イメージ図)
飲酒 免疫系が活性化 炎症性サイトカイン↑ 睡眠の質が低下 中途覚醒が増える 翌日の頭痛・倦怠感 集中力の低下 コンジナーの多い酒ほど ①をより刺激しやすいとされる
二日酔いは単一の原因ではなく、免疫系の反応と睡眠の乱れという2つの経路が重なって起きると考えられている。
van de Loo et al. (2021)、Ayre et al. (2021) の報告内容をもとにしたイメージ図(実測値ではありません)

この話、こう使える

ここまで読むと「結局どうすればいいのか」が気になるはずです。残念ながら、研究が示しているのは魔法のような解決策ではありませんが、いくつか現実的なヒントは引き出せます。

結局のところ、これらの研究が繰り返し示しているのは、「飲む量を減らすこと」に代わる近道は今のところ見つかっていないという、身も蓋もない事実です。

注意点:この研究の限界

⚠️ これは医療的なアドバイスではありません この記事は研究内容の紹介であり、診断や治療を目的としたものではありません。飲酒量や体質について心配な症状がある場合は、医療機関に相談してください。アルコールへの反応には遺伝的な個人差も大きく、ここで紹介した研究結果がそのまますべての人に当てはまるとは限りません。

よくある質問

コンジナーが少ないお酒を選べば、二日酔いを防げますか?
「防げる」とまでは言えません。Rohsenowらの研究では、コンジナーの少ないウォッカのほうがバーボンより主観的なつらさは軽かったものの、翌日の神経認知テストの成績はどちらも同じくらい低下していました。つまりコンジナーの量は「感じ方」には関わっても、体への負荷そのものを消してくれるわけではない、というのが研究が示す範囲です。飲酒量を抑えることが、依然としていちばん確実な対策です。
結局、二日酔いに効く市販薬やサプリはあるのでしょうか?
2022年に『Addiction』誌に発表された系統的レビューでは、21件の無作為化比較試験・386人分のデータを調べた結果、"効果があるとはっきり言える薬剤やサプリは確認できなかった"と結論づけられています。しかも21件の研究はそれぞれ別の成分を扱っており、同じ成分を検証した研究が2つとしてなかったため、結果を統合するメタ分析自体ができなかったとも報告されています。効果を主張する製品を見かけたら、根拠の弱さを念頭に置いておくのが安全です。
お酒に強い人は、免疫反応も起きにくいのでしょうか?
そこはまだ十分に分かっていません。van de Looらの研究は"二日酔いになりやすい人"と"なりにくい人"を比較する目的で計画されましたが、飲酒後にIL-6・IL-10が上昇すること自体は両グループに共通して見られました。免疫反応の大きさと、本人が感じる二日酔いのつらさが必ずしも一致しない可能性が示されており、"酔いへの強さ"と"体内で起きている炎症反応"は、少なくとも単純には対応していないようです。

今日の3行まとめ

📌 これだけ持ち帰ってください 二日酔いは脱水や毒素の名残だけでなく、免疫系の炎症反応と睡眠の乱れが重なって起きると考えられています。
コンジナーの少ない酒に変えると「つらさ」は軽くなる可能性がありますが、脳のパフォーマンス低下までは防げませんでした。
有効な治療薬はまだ見つかっておらず、飲む量を減らすことが今のところいちばん確実な対策です。

体調と頭の働きの関係が気になった人は、カフェインが一番効くタイミングの科学腸と脳をつなぐ迷走神経の科学も、当サイトのサイエンスラボで扱っています。

⏱ 頭がクリアな日に、英語脳を試してみませんか

二日酔いの朝は頭の働きが鈍るという今日の話。逆に言えば、頭がすっきりしている日こそ実力を試すチャンスです。

英語脳年齢テストをやってみる →

参考文献