「今日中にやる」と決めた作業を、結局また明日に回してしまった――そんな朝を迎えたとき、あなたは自分を責めるでしょうか。それとも「まあ仕方ない」と流すでしょうか。

心理学の実験は、この2つの反応の選び方が、次にまた同じことをするかどうかを左右すると示唆しています。119人の大学生を2回の試験前に追跡した研究では、最初の試験前に先延ばしした自分を許せた学生ほど、2回目の試験前は先延ばしが減っていました

「自分を追い詰めるほど直る」というのが、多くの人の直感ではないでしょうか。しかし研究が示したのは、その直感とはむしろ逆に近い結果でした。今回は"先延ばし"の心理学を、実験と大規模メタ分析から見ていきます。

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なぜ人は「あとでやる」と言ってしまうのか

先延ばし研究の土台になっているのが、カルガリー大学のPiers Steelが2007年に『Psychological Bulletin』誌で発表したメタ分析(=多数の研究結果を統計的にまとめる手法)です。この論文は691件の相関関係を統合し、先延ばしと結びつきの強い要因、弱い要因を洗い出しました。

結果、先延ばしと強く関連していたのはタスクへの嫌悪感(その作業がどれだけ嫌か)、自己効力感の低さ(自分にはできないという感覚)、衝動性、そして自己コントロールや計画性といった誠実性(コンシエンシャスネス)の低さでした。一方、神経症傾向や反抗心、刺激を求める傾向との関連は弱いものにとどまっています。つまり先延ばしは、性格の一部というより「今の気分を優先し、将来の自分を後回しにする」という自己調整(セルフレギュレーション)の失敗に近い、というのがSteelの結論です。

この論文では、先延ばしを「時間割引(将来の価値を割り引いて評価する心の傾向)」の視点からも説明しています。人は、遠い将来の利益ほど小さく感じてしまう性質を持っています。今日楽をする心地よさは目の前にあって大きく感じられるのに対し、明日困る自分は遠くにいて小さく見える。だから「今はまだいい」という判断が、繰り返し選ばれてしまうというわけです。実際、Steelの論文をはじめとする複数の調査では、自分を慢性的な先延ばし屋だと認める人の割合は、1970年代の調査ではおよそ5%だったのに対し、2000年代の調査ではおよそ26%まで増えていたと報告されています。

実験:119人の大学生を、2回の試験前に追跡した

先延ばしの原因を突き止めたSteelの研究に対し、先延ばしから抜け出す手がかりを探ったのが、カールトン大学のMichael J. A. Wohl、Timothy A. Pychyl、Shannon H. Bennettが2010年に『Personality and Individual Differences』誌に発表した実験です。

対象は、心理学入門の授業を受けていた大学1年生119人(男性49人・女性70人)。この授業では、学期中に中間試験が2回行われます。研究チームは、それぞれの試験の直前に学生たちへアンケートを実施し、次の2つを尋ねました。

着目したのは、1回目の試験前の自己容赦の高さが、2回目の試験前の先延ばしの度合いを予測するかどうかという点です。もし「自分を許すと甘えて余計にサボる」という直感が正しければ、自己容赦が高い学生ほど2回目もまた先延ばしするはずです。

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結果:自分を許せた学生ほど、次はサボらなかった

結果は、直感の逆でした。1回目の試験前に、先延ばしした自分を許せていた学生ほど、2回目の試験前の先延ばしは少なかったのです。しかも研究チームは、この関係がどういう経路で生じているかまで調べています。統計的な媒介分析(=AがBを通じてCに影響しているかを確かめる手法)の結果、自己容赦はネガティブな感情(罪悪感や自己嫌悪など)を減らすことを通じて、次の先延ばしを減らしていたことが分かりました。自分を許す行為そのものが直接サボりを防ぐというより、「許す→嫌な気分が和らぐ→次の課題に向き合いやすくなる」という連鎖だった、というわけです。

💡 なぜ直感と逆になるのか 自分を責め続けると、そのタスクを見るたびに罪悪感を思い出すことになります。すると人は、罪悪感そのものを避けるためにタスクからも目をそらすようになりやすい。先延ばしを罰しているつもりが、先延ばしをさらに遠ざけにくくしている、という皮肉な仕組みです。

先延ばしの重さは、学業に限った話ではありません。カルガリー大学のSteelらが2022年に『Frontiers in Psychology』誌で発表した別の研究では、カナダの労働紛争の調停人(グリーバンス・アービトレーター)を対象に、先延ばし傾向の高さと実際の遅延日数の関係を調べています。調停人の仕事は「提出期限が厳密に決まっていない」という、まさに先延ばしが起きやすい環境です。

図1:先延ばし傾向の高さと、実際にかかった意思決定までの日数
26日 83日 先延ばし傾向 低め 平均より-1標準偏差 先延ばし傾向 高め 平均より+1標準偏差 100日 75日 50日 25日 0日
先延ばし傾向が平均より高かった調停人は、低かった調停人のおよそ3倍の日数をかけて意思決定を下していた。
出典:Steel, Taras, Ponak & Kammeyer-Mueller (2022) の報告値をもとに作図

さらに、先延ばしのツケを長期的に追った研究もあります。フロリダ州立大学のDianne M. TiceとRoy F. Baumeisterが1997年に『Psychological Science』誌で発表した縦断研究(=同じ対象者を時間をおいて繰り返し調べる研究)では、学期のはじめと終わりで、先延ばしする学生としない学生を比較しています。学期の序盤、先延ばしする学生はストレスも体調不良も少なめでした。目の前の課題を後回しにできる分、気楽だったわけです。ところが学期の終盤になると立場は逆転し、先延ばしする学生のほうがストレスも体調不良も多く、成績も低かったと報告されています。研究チームはこれを、短期的には得をして長期的には損をする自己矛盾的な行動パターンだと位置づけました。

図2:自分を「責める」場合と「許す」場合で、その後たどる道筋
❶ 責め続けた場合 先延ばし 罪悪感 回避が強まる また先延ばし ④のあとは①に戻り、ループが続く ❷ 自分を許した場合 先延ばし 自分を許す 負の感情が低下 次に取り組める ④のあとはループを抜けて次の課題に向かいやすい
先延ばしを責め続けると、罪悪感が回避を強めてまた先延ばしを招く。自分を許すと負の感情が薄れ、次の課題に取りかかりやすくなる。
Wohl, Pychyl, & Bennett (2010) の媒介分析モデルをもとにしたイメージ図(実測値ではありません)

なぜこうなるのか

まず土台にあるのが、Steelの論文が説明する「時間割引」です。遠くにあるものほど小さく見える、望遠鏡を逆さに覗いたときのような感覚だと考えると分かりやすいかもしれません。今日の「めんどくささ」は目の前にあって大きく見えるのに、明日の「後悔」は遠くにあってぼんやり小さく見える。だから理屈では分かっていても、「今はまだいい」がつい選ばれてしまいます。

そこに重なるのが、Wohlらの実験が示した罪悪感のループです。先延ばしをすると、多くの人は自分を責めます。すると、そのタスクは「嫌な作業」であると同時に「自己嫌悪を思い出させるもの」にもなってしまう。人は不快な感情を避けようとする生き物なので、タスクを避けることは、同時に罪悪感を避けることにもなってしまいます。結果として、責めれば責めるほどタスクに近づきにくくなる、という逆効果が起きるわけです。

自分を許すことは、この悪循環の途中に割って入る働きをします。「先延ばししたのは事実だが、それはそれとして次に進もう」と区切りをつけることで、罪悪感というブレーキが弱まり、タスクに向き合うハードルが下がる。Wohlらの研究が明らかにしたのは、まさにこの経路でした。

この話、こう使える

研究を知っただけでは、明日の行動は変わりません。日常に落とし込む形を3つ挙げます。

I forgive myself for procrastinating.
先延ばししてしまった自分を、許す。
Wohlらの論文のタイトルにも使われた発想そのものです。先延ばしに気づいた瞬間、自分を責める代わりに、この一言を頭の中で(あるいは声に出して)唱えてみる。ポイントは言い訳をつくることではなく、罪悪感に区切りをつけて次に進むことです。
📌 具体的な工夫
  • 責めるより、区切る。「なぜやらなかったのか」を掘り下げるより、「今からどうするか」に意識を向け直す。
  • タスクの嫌悪感を下げる。Steelの分析が示すとおり、先延ばしはタスクへの嫌悪感からも生まれます。作業の最初の一歩を極小化する(例:単語アプリを1分だけ開く)だけでも着手のハードルは下がります。
  • 「治らない性格」だと諦めない。van Eerde & Klingsieck(2018)が24件の介入研究をまとめたメタ分析では、先延ばしを減らす介入(特に認知行動療法ベース)は大きな効果を示し、その効果はフォローアップ調査でも維持されていました。介入で変えられる余地は十分にある、というのが現在の理解です。

英語学習でも同じ構図はよく起きます。「今日は忙しくて単語アプリを開けなかった」という日を責め続けると、アプリ自体が罪悪感の象徴になり、ますます開かなくなる。むしろ「開けなかった日があってもいい」と一度区切って、翌日また1分だけ開くほうが続きやすい、というのがここまでの研究から導ける実践的な示唆です。継続の仕組みそのものを見直したい人は、英会話の独学ロードマップも参考にしてください。

注意点:この研究の限界

⚠️ 「自分を許す」は「開き直る」とは違う Wohlらの研究が示したのは、負の感情を減らすことで次の行動が変わったという経路です。責任そのものを放棄したり、「どうせ許されるから今回もサボろう」と居直ったりすることを後押しする結果ではありません。区切りをつけたうえで、次の一歩に進むことが要点です。

よくある質問

先延ばしは、意志が弱いから起きるのでしょうか?
Steel(2007)の大規模メタ分析では、先延ばしと関連が強かったのはタスクへの嫌悪感、自己効力感の低さ、衝動性、自己コントロールの弱さでした。一方、神経症傾向や反抗心との関連は弱いという結果でした。研究者たちは先延ばしを「性格の欠陥」というより「自己調整(セルフレギュレーション)の失敗」として捉えています。
自分を許すと、かえって先延ばしが増えませんか?
Wohlらの研究では逆の結果が出ています。最初の試験前に先延ばしした自分を許せた学生ほど、2回目の試験前の先延ばしは減っていました。自分を許すことは開き直りではなく、負の感情を減らして次の課題に向き合いやすくする働きをしていたと考えられています。
先延ばし癖は、努力すれば本当に改善するのでしょうか?
van Eerde & Klingsieck(2018)が24件の介入研究をまとめたメタ分析では、介入後に先延ばしの大きな減少がみられ、その効果はフォローアップ調査でも保たれていました。中でも認知行動療法をベースにした介入がもっとも効果が大きかったと報告されています。

今日の3行まとめ

📌 これだけ持ち帰ってください 先延ばしは意志の弱さというより、タスクへの嫌悪感や自己効力感の低さが絡む「自己調整の失敗」でした。
先延ばしした自分を責めるより許した学生のほうが、次の先延ばしは少なかったのです(119人の実験)。
「治らない性格」ではなく、介入(特に認知行動療法)で実際に減らせる、とメタ分析は報告しています。

自己調整にまつわる別の切り口を知りたい人は、サイエンスラボの他の記事もあわせてどうぞ。

🎯 「開けなかった日」を責めずに続けられる学習法を

先延ばしを責めるほど遠ざかりやすいのは、英語学習も同じです。まずは自分に合った続け方を知って、罪悪感より前に「今日の1分」から再開しましょう。

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参考文献