「ゲームばかりしていると頭が悪くなる」——多くの人が、一度はこう言われた経験があるはずです。ところが心理学の実験室では、これとは正反対の結果が繰り返し報告されてきました。特定のジャンルのゲームを続けている人ほど、注意力や視覚的な処理速度を測るテストで、プレイしない人より高い成績を出す、というのです。
注目されているのは、FPS(一人称視点シューティング)などの"アクションゲーム"というジャンルです。2003年に『Nature』誌に発表された実験を皮切りに20年以上にわたって研究が積み重ねられ、2017年には数百件の関連研究をまとめたメタ分析で、その効果の大きさが数値として示されました。一方で、同じ枠組みを別のチームが追試したところ、効果がはっきり再現されなかったという報告もあります。さらに、"遊びすぎ"は幸福度を下げるという大規模調査も存在します。
論文4本から、ゲームが脳に与える影響の実像と、その"境界線"がどこにあるのかを見ていきましょう。
なぜ「ゲームは脳に悪い」というイメージが根強いのか
長時間の画面利用は目や姿勢への負担になりますし、「ゲームばかりで勉強をしない」という生活習慣上の心配も、決して的外れではありません。だからこそ「ゲームは時間の無駄」「脳に悪い」という印象は、多くの家庭や学校で共有されてきました。
ただし、この印象の多くは"ゲーム全般"をひとくくりにした話です。心理学の実験は、もっと細かく切り分けて調べます。パズル系、シミュレーション系、そして敵を素早く見つけて反応するアクション系——ジャンルによって、脳に要求される作業はまったく違うからです。中でも研究者の関心を集めてきたのが、複数の対象に同時に注意を向けながら、コンマ数秒単位で反応し続けるアクションゲームでした。
実験:プレイヤーと非プレイヤーを比べただけでなく、"訓練"もさせた
この分野で最も引用される研究のひとつが、ロチェスター大学のC. Shawn GreenとDaphne Bavelierが2003年に『Nature』誌で発表した実験です。
研究はまず、日常的にアクションゲームをプレイしている人(VGP)と、ほとんどプレイしない人(NVGP)を比べる4つの実験から始まりました。視野の中でどれだけ多くの対象に同時に注意を向けられるか、素早く連続して現れる標的をどれだけ見逃さずに検出できるか、といった視覚的注意のテストです。
ここで終わっていれば、「注意力が高い人がもともとアクションゲームを好んでいるだけではないか」という疑問(自己選択バイアス)が残ります。そこで研究チームは5つ目の実験として、ふだんゲームをしない17人を2グループに分けました。片方の9人には一人称シューティングのMedal of Honor、もう片方の8人にはパズルゲームのTetrisを、1日1時間、10日間プレイしてもらいます。訓練の前後に3種類の視覚的注意のテストを実施し、成績の変化を比較する設計です。
結果:訓練を受けた側だけ、3つのテストすべてで成績が上がった
結果は明確でした。Medal of Honorを10日間プレイしたグループは、3種類のテストすべてで訓練前より成績が向上していました。一方、Tetrisをプレイしたグループには、目立った変化が見られませんでした。ゲームをする人がもともと注意力が高いのではなく、アクションゲームをプレイすること自体が、視覚的注意を変化させることを示した結果です。
この結果は、その後の研究の土台になりました。2017年、GreenとBavelierも名を連ねる研究チームが、2000年から2015年までに発表された関連研究をまとめたメタ分析を『Psychological Bulletin』誌に発表しています。習慣的なプレイヤーと非プレイヤーを比べた横断研究では平均g=0.55、非プレイヤーを実際に訓練した介入研究では平均g=0.34という効果量が報告されました(gは効果の大きさを表す指標で、心理学の目安ではおよそ0.2が「小さい」、0.5が「中程度」、0.8が「大きい」とされます)。
| 比較の種類 | 何と何を比べたか | 効果量(g) |
|---|---|---|
| 横断研究 | 習慣的なプレイヤー 対 非プレイヤー | g = 0.55(中程度) |
| 介入研究 | 非プレイヤーの訓練前 対 訓練後 | g = 0.34(小〜中程度) |
なぜこうなるのか
Bavelierらが2011年に『Vision Research』誌で発表した脳画像の研究では、アクションゲームのプレイヤーは、動く妨害刺激に対して視覚野の一部(動きを感知するMT/MST野)の活動が非プレイヤーより小さいことが報告されています。さらに、注意の要求が増えるほど非プレイヤーは前頭・頭頂葉のネットワークをより強く働かせていたのに対し、プレイヤーはこのネットワークをほとんど追加で動員していませんでした。
噛み砕くと、非プレイヤーは注意を"頑張って"振り向けているのに対し、プレイヤーは同じ作業を"省エネで"こなせている、というイメージです。不要な情報を早い段階でふるい落とす仕組みが効率化されている、と研究者たちは解釈しています。
ただし脳が鍛えられれば無条件に良いわけではありません。時間の使い方には、別の研究が示す"ちょうどいい量"があります。
この話、こう使える
研究を知っても、生活が変わらなければ意味がありません。日常に落とし込むポイントを4つ挙げます。
- ジャンルを選ぶ。 効果が確認されているのは、複数の対象に同時に注意を向けながら素早く反応する"アクション系"(FPS/TPSなど)が中心です。Bediouらのメタ分析でも「すべてのゲームが同じように認知に影響するわけではない」と明記されています。
- 時間を"ゼロか無限か"で考えない。 Przybylski & Weinstein(2017)の12万人規模の調査では、デジタル画面の利用時間と幸福感の関係は直線ではなく、逆U字(2次関数)を描くと報告されています。少なすぎても、多すぎても、幸福感は下がる方向に振れるということです。
- 日本の調査からも近い傾向。 Yamaguchi(2023)がモバイルゲーム利用者5,000人を対象に行った調査では、1日2時間以内のプレイは「まったくプレイしない」場合より生活満足度が高かった一方、2時間を超えると自己成長や前向きな気分に関する指標は低下したと報告されています。
- 因果関係にまで踏み込んだ調査もある。 Egamiら(2024, Nature Human Behaviour)は、2020〜2022年の日本で行われたゲーム機の抽選販売を利用し、当選(=ゲーム機を入手できた)かどうかで比較する自然実験を行いました。約9.8万人分のデータを分析した結果、ゲーム機を持つこと・プレイ量が増えることは、心理的苦痛を減らし生活満足度を0.1〜0.6標準偏差分高めるという結果が報告されています。
注意点:この研究の限界
- 出版バイアスの可能性。 Bediouらのメタ分析自身が、発表済みの論文に限ると効果量が全体の研究(未発表分も含む)より平均30%大きく出ている可能性を指摘し、より大規模で30時間を超える介入研究が必要だと述べています。
- 幸福度研究の多くは相関関係。 Twenge ら(2018)の調査のように「スクリーン時間が長いほど不安・抑うつの割合が高い」という報告もありますが、多くは横断的な相関データです。"ゲームのしすぎが原因で不安になった"のか"もともと不安な人がゲームに逃避している"のかを、完全には切り分けられません。Orben ら(2019)のように「実質的な悪影響の証拠は乏しい」とする再検証もあり、研究者の間でも見解は割れています。
- 被験者の多くは欧米圏の若年層。 紹介した実験・調査の多くは英語圏や日本の10〜30代を対象にしたもので、年齢層や文化が異なる集団にそのまま当てはまるとは限りません。
- この記事は診断や治療の助言ではありません。 ゲームの利用が心配なほど生活に影響している場合(睡眠不足、学業や仕事への支障など)は、自己判断の根拠にせず、専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問
今日の3行まとめ
時間には"ちょうどいい量"があり、1日2時間前後を境に幸福感の指標が下がり始めるという報告が複数あります。ジャンルを選び、時間を区切る。 それだけで、「ゲームは脳に悪い」という単純な話ではなくなります。
集中力や注意力そのものに興味が湧いた人は、スマホの通知が集中を壊す仕組みやマルチタスクの正体もあわせてどうぞ。
今日のテーマは"ゲーム"でしたが、当サイトにも英語力を測る診断やちょっとした脳トレ系コンテンツがあります。息抜きに試してみてください。
診断&ゲーム一覧を見てみる →参考文献
- Green, C. S., & Bavelier, D. (2003). Action video game modifies visual selective attention. Nature, 423(6939), 534–537. 論文を見る
- Bediou, B., Adams, D. M., Mayer, R. E., Tipton, E., Green, C. S., & Bavelier, D. (2017). Meta-Analysis of Action Video Game Impact on Perceptual, Attentional, and Cognitive Skills. Psychological Bulletin, 143(1), 77–110. 論文を見る
- Bavelier, D., Achtman, R. L., Mani, M., & Föcker, J. (2011). Neural bases of selective attention in action video game players. Vision Research, 52(1), 1–11. 論文を見る
- Boot, W. R., Kramer, A. F., Simons, D. J., Fabiani, M., & Gratton, G. (2008). The effects of video game playing on attention, memory, and executive control. Acta Psychologica, 129(3), 387–398. 論文を見る
- Przybylski, A. K., & Weinstein, N. (2017). A Large-Scale Test of the Goldilocks Hypothesis. Psychological Science, 28(2), 204–215. 論文を見る
- Egami, H., et al. (2024). Causal effect of video gaming on mental well-being in Japan 2020–2022. Nature Human Behaviour. 論文を見る
- Yamaguchi, S. (2023). The relationship between playing video games on mobile devices and well-being in a sample of Japanese adolescents and adults. SAGE Open Medicine, 11. 論文を見る
- Twenge, J. M., Martin, G. N., & Campbell, W. K. (2018). Decreases in Psychological Well-Being Among American Adolescents After 2012. Emotion, 18(6), 765–780.
- Orben, A., & Przybylski, A. K. (2019). Screens, Teens, and Psychological Well-Being: Evidence From Three Time-Use-Diary Studies. Psychological Science, 30(5), 682–696.