📖くわしく解説します
「often の t は発音しない」というのは、日本の英語学習ではほぼ常識として教わるルールです。実際、t を読まない OFF-en という発音は辞書でも標準的な扱いを受けています。ところが英語圏では、OFF-ten と t をしっかり発音する人も少なくありません。これは単なる個人のクセや聞き間違いではなく、100年近く続いている、れっきとした発音論争です。
often はもともと oft という単語でした。語源辞典Etymonlineによれば、13世紀半ばに反対語の selden(後の seldom)との類推で語尾に -n が付き、often という形が生まれたとされています。16世紀には oft に代わって一般的な形として定着しました。この新しい -ften という綴りの並びは、soften・fasten・listen・moisten などと同じ構造を持っています。辞書American Heritageの解説によれば、こうした「子音+t+en」という発音しにくい並びでは、15世紀ごろの音変化でtが脱落する傾向があったとされ、often のtも同様に消えていきました。16〜17世紀の発音研究家(オーソエピスト)の記録でも、tを発音しない形がすでに教養ある話し方とされていたことが確認できます。
ところが19世紀、公教育の広がりとともに識字率が上がると、書かれた綴りを見てそのとおりに読み直す「スペリング発音」という現象が各地で起こります。American Heritageの解説は、often のtもこの時期に一部の話者の発音の中で復活したと説明しています。興味深いのは、同じ「t+en」の仲間である soften や fasten、listen では同様の復活がほとんど起きず、tを発音しない形がそのまま標準の座を保っている点です。often だけがこの綴りによる発音の揺り戻しの代表例として今も語られているのは、使用頻度が高く話者の目に触れる機会が多かったためと考えられます。
20世紀に入っても評価は定まりませんでした。イギリスの文法家ヘンリー・ファウラーは1926年の著書『Modern English Usage』で、tを発音する言い方を過剰修正(hypercorrection)だと切って捨てています。一方、現代の辞書の判断は割れたままです。American Heritage(第4版)は両方の発音を正しいものとして扱いますが、Merriam-Websterは2018年の改訂でtを発音する形に「非標準」というラベルを付けました。同じ単語の発音について権威ある辞書同士が今も一致していないというのは、英語の中でもかなり珍しいケースです。
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❓まとめ
Q. often の t、発音する人としない人がいます。英語の授業では「t は読まない」と習うのに、ネイティブの間でも今なお意見が割れているのはなぜでしょうか?
A. often の t はもともと発音されていましたが、15世紀ごろの子音連続の簡略化で一度消えたとされています。それが19世紀、識字率の向上とともに綴りを見てそのとおり読み直す「スペリング発音」という現象で一部の話者に復活し、今も辞書によって扱いが分かれる珍しいケースになっています。