📖くわしく解説します
about・taken・pencil・lemon・supply・sibyl という単語を見比べると、母音の綴りは a・e・i・o・y・y とすべて違います。ところが実際に発音すると、強勢の置かれないこれらの母音はどれも同じ「あいまいなア」、記号で書けば ə という音に崩れます。rhythm のように、綴りの上では母音の文字すら書かれていない場所にこの音が現れることもあります。英語は強勢のある音節だけ母音をはっきり発音し、強勢のない音節の母音は元の文字が何であれこの一音に平坦化してしまう、という性質を持っているのです。
この音を指す「schwa」という用語自体は、もとはヘブライ語に由来します。ヘブライ語の文字体系にはシェワ(shva)という記号があり、母音が無い、または極めて弱いことを示す符号として使われていました。19世紀のドイツの言語学者たちがこの名称を借用し、言語学の術語として定着させたとされ、英語での使用例は1890年代から確認されています。ただし、ヘブライ語のシェワの記号そのものがこの「あいまいなア」の音として発音されていたわけではなく、あくまで名称だけが転用された点には注意が必要です。
発音記号の ə(アルファベットの e を逆さまにした形)を最初に使ったのは、1820年代にバイエルン地方のドイツ語方言を研究していた言語学者ヨハン・アンドレアス・シュメラーだとされています。もともとはドイツ語の弱化した母音を書き表すための記号でしたが、後にイギリスの音声学者アレクサンダー・ジョン・エリスが英単語 "but" などに現れるのと同じ曖昧母音を表すためにこの記号を転用し、やがて国際音声記号(IPA)の標準的な一文字として定着しました。
schwa が英語の母音全体のどれくらいを占めるかについては資料によって幅があり、音声学者デニス・フライの推定では全母音の4分の1程度、他の資料では2割前後とされるなど諸説ありますが、いずれにせよ単独の母音としては最多とみられています。専用の文字を持たないまま、どの母音字の裏にも隠れて出現できるこの音は、裏を返せば「強勢の無い母音をしっかり発音しすぎる」ことが非ネイティブらしい発音に聞こえる一因にもなっています。banana という単語の3つの a が実は全部違う音だと気づけるかどうかが、ひとつの目安になります。
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❓まとめ
Q. about の a、taken の e、pencil の i、lemon の o、supply の y——綴りはバラバラなのに、発音するとなぜ全部同じ「あいまいなア」になるのか?
A. 英語で実際にいちばん多く使われている母音の音は、a・e・i・o・u のどれでもなく、schwa(シュワ、記号は ə)と呼ばれるこの「あいまいなア」です。アクセントが置かれない音節の母音はほとんどがこの音に崩れ落ちるため、言語学者の推定では英語の母音全体のうち4分の1前後をこの一音が占めるとされています。それなのに、アルファベットにはこの音のための専用の文字が存在しません。