📖くわしく解説します
英語の電話や立ち話の終わりに出てくる "Okay, well, I'll let you go." を直訳すると「あなたを(私から)解放してあげます」。いかにも相手を気遣っているように聞こえますが、英語学習サイト phrasemix.com などが指摘するとおり、実際には聞き手が忙しいかどうかとは無関係に使われることがほとんどです。むしろ、話し手自身がその場を切り上げたいときにこの言い方を使うケースが多く、相手のためを装って自分の都合で会話を終える、体のいい建前という側面があります。
この振る舞いを理論立てて説明したのが、社会学者ハーヴェイ・サックスとエマニュエル・シェグロフが1973年に発表した論文 "Opening up Closings"(Semiotica誌、8巻4号)です。この論文によれば、会話はいきなり切り上げるのではなく、"okay" や "well" のような短い合図(pre-closing)を交換し、どちらも新しい話題を持ち出さないことを互いに確認したうえで、初めて "bye" の交換(terminal exchange)に進むという手順を踏みます。"I'll let you go" は、この合図に「相手のために切る」という理由づけを添えて引き延ばした形だと位置づけられます。
英語学習サイト usingenglish.com は、"I'll let you get on" や "I won't keep you any longer" も同じ機能を持つ表現として挙げ、必ずしも本心ではないと述べています。ライフスタイル系メディア vegoutmag.com は、この言い回しを年配層が好んで使う「偽の終わり(false ending)」の代表例として紹介しており、言ったあとにまた話が続くことも珍しくないと指摘します。世代によって受け取り方にも差があり、若い世代には「長く話しすぎた」ことの指摘や、早く切りたいという意思表示のように響く場合もあるようです。
なお、この言い回しの由来を「電話代が高かった時代の名残」とする説がネット上で語られることがありますが、これは推測の域を出ず裏付けは確認できていません。確かなのは、文字どおり「相手を解放する」という意味で使われているわけではないという点です。英語学習者としては、この一言を聞いたら相手の忙しさを心配するより、「そろそろ会話を終えましょう」という社交上のシグナルだと受け取るほうが実用的だといえます。
🔊この話に出てきた英語を使ってみる
音声ボタンを押すと、ネイティブ発音で読み上げます。
❓まとめ
Q. 電話を切るときのお決まりの一言 "I'll let you go."(あなたを解放してあげます)。でも、相手は本当に忙しいのでしょうか? この一言、文字どおりの意味で言われていないとしたら、何のためにあるのでしょう?
A. 「I'll let you go.」は、相手が本当に忙しいかどうかとはほとんど関係なく使われる、電話を終わらせるための決まり文句です。会話分析の研究が「pre-closing(前置きの終了部)」と呼ぶ合図の一種で、電話を切る理由を相手の事情のように見せかけることで、どちらも気まずさを感じずに通話を終えられるようにする社交上の工夫だと説明されています。