答え名詞の所有格 's は、古英語の屈折語尾 -es が崩れたとき、省略の目印としてあとからアポストロフィを足したものです。一方 its のような人称代名詞の所有格は、名詞の 's とは別系統の独自の屈折形で、もともとアポストロフィを必要としません。

📖くわしく解説します

Tom's bag、the dog's bone のように名詞には ' を付けて所有格を作るのに、its、his、hers、ours、yours、theirs といった代名詞の所有格には一切 ' が付きません。英語学習の初期に「所有格には's を付ける」と教わった人ほど、its だけ例外のように感じてしまいますが、話はむしろ逆です。歴史的に古いのは ' の無い代名詞の所有格のほうで、名詞の 's こそ後から生まれた書き方の工夫なのです。

語源辞典Etymonlineによれば、名詞の所有格 's は古英語の属格(所有格)語尾 -esに遡ります。例えば「犬」を意味する hund の所有格は hundes でした。中英語の時代にかけて、強く発音されない語尾の e が徐々に発音上も表記上も失われていき、16世紀ごろから書き手たちは「文字が1つ落ちている」ことを示すために、その痕跡としてアポストロフィを書き込むようになりました。つまり ' は最初、所有格を示す記号ではなく、消えた e の目印として生まれたのです。

同じ16〜17世紀には、この ' s を「his の省略」だと考える説が広く信じられ、the king's crown を the king his crown の短縮形とみなす書き方さえ流行しました。しかしこれは所有格 -s がすでに古英語の時代から存在していたことや、女性や複数の持ち主にも his は当てはまらないことから、現在の歴史言語学では後付けの俗説とされています。流行した時期にだけ真に受けられた、いわば一時的な勘違いだったわけです。

では its はどこから来たのか。古英語には it(当時は hit)専用の所有格が無く、his が男性にも中性(it)にも共通して使われていました。16世紀末ごろ、it に直接 's を付けた its が新しく作られ、1600年前後に his に代わって定着したとEtymonlineは記しています。興味深いのは、OEDによればこの新しい its も19世紀初頭までは it's と ' 付きで書かれることがあったという点です。それが後に ' を落として今の its に落ち着いたのは、it is の短縮形である it's と紙面上でぶつかってしまうのを避けるためだったとされています。つまり今の「アポストロフィの無い its」は例外ではなく、his や hers と同じ代名詞所有格の仲間として、もともとの形に戻っただけだと言えるのです。

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The cat chased its tail for almost ten minutes.
その猫は10分近く、自分の尾を追いかけ回していた。

🏷 its it's apostrophe アポストロフィ 所有格 possessive his-genitive 文法 bunpo

❓まとめ

Q. Tom's bag のように名詞の所有格には ' が付くのに、its にはなぜ付かないのか? 実は its のほうが所有格として「正統派」だと知っていましたか?

A. 名詞の所有格 's は、古英語の屈折語尾 -es が崩れたとき、省略の目印としてあとからアポストロフィを足したものです。一方 its のような人称代名詞の所有格は、名詞の 's とは別系統の独自の屈折形で、もともとアポストロフィを必要としません。

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