📖くわしく解説します
英語を習い始めると必ずつまずくのが、must の過去形が存在しないという事実です。過去に「〜しなければならなかった」と言いたいとき、"musted" とは言えず、代わりに had to という、見た目も語源もまったく別の動詞を借りてきます。なぜ must だけこんな穴だらけの活用になっているのでしょうか。
答えは古英語までさかのぼります。must の先祖は motan(許される・しなければならない)という動詞で、その過去形が moste でした。ところが14世紀ごろから、この過去形 moste のほうが現在の意味でも使われるようになり、やがて元の現在形 mot を押しのけて定着してしまいます。つまり must は、生まれたときから「過去形が現在形に化けた」動詞なのです。これは定説として辞書の語源欄にも載っている経緯です。
must は can・may・shall・will と同じ「preterite-present(過去現在)動詞」という仲間に属します。この仲間の動詞は、もともと過去形だった形を現在形として使い回すという共通の生い立ちを持っています。ただし can → could、may → might のように、ほかの仲間は新しい過去形を作って対応したのに対し、must だけは新しい過去形を用意できないまま今に至りました。動詞としての活用表に穴が空いた、いわゆる「欠如動詞(defective verb)」になったわけです。
この穴を埋めているのが、have の過去形を使った had to という代役です。「I must go.」の過去は「I had to go.」、未来の義務は「I will have to go.」と、状況に応じてまったく別の動詞に乗り換える必要があります。ただし例外もあり、間接話法では "She said she must leave immediately." のように must をそのまま過去の文脈で使うことも許されています。過去形が無いという欠陥が、かえって英文法のあちこちに小さな爪痕を残しているのです。
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❓まとめ
Q. must(しなければならない)には、なぜ過去形が無いのか?
A. must は、もともと「しなければならなかった」という過去形そのものだったのが現在形に成り上がってしまった動詞で、行き場を失った過去の役目は、まったく別の動詞 had to が肩代わりしています。