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争いの発端は、メイン州の労働法にあった一文です。州の残業代規則は、次の作業に従事する労働者を残業代の対象外とすると定めていました。"the canning, processing, preserving, freezing, drying, marketing, storing, packing for shipment or distribution of"(缶詰、加工、保存、冷凍、乾燥、販売、保管、出荷用の梱包または配送)。乳業会社オークハースト・デイリーで配送だけを担当していたドライバーたちは2014年、自分たちは梱包(packing)はしていないのだから対象外の作業(distribution)には当たらず、残業代を受け取る権利があると提訴しました。
会社側は、文末の "packing for shipment or distribution" はひとまとまりの除外対象であり、配送(distribution)という単語一つだけでも対象外に含まれると主張しました。しかし2017年3月、第一巡回区連邦控訴裁判所は、distribution の前にコンマが無いために「配送」が独立した一項目なのか「出荷用の梱包」を修飾する語に過ぎないのかが文法的に確定できないと判断します。判事デイビッド・バロンは判決文に "For want of a comma, we have this case."(コンマが一つ無かったせいで、この裁判は起きた)と書き残しました。労働法では解釈の分かれる条文を労働者側に有利に読むという原則があり、裁判所はドライバー側の主張を支持。オークハースト・デイリーは127人のドライバーに合計500万ドルを支払う和解に応じています(過失は認めていません)。
この裁判の最中、メイン州議会は条文そのものを書き換えました。ただし足したのはコンマ1つではありません。項目を区切る記号をすべてコンマからセミコロンに替え、「缶詰;加工;保存;……;出荷用の梱包;または配送」という形に改めることで、今後同じ曖昧さが起きないようにしています。コンマを一つ追加するという最も単純な解決策ではなく、区切り方そのものを変えるという対応を選んだわけです。
このコンマの呼び名である「オックスフォードコンマ」は、出版社オックスフォード大学出版局(OUP)にちなんでいます。最後の項目の前にコンマを打つ流儀は、同局の校正責任者だったホレス・ハートが1905年にまとめた社内規定集『Hart's Rules for Compositors and Readers』(社内では1893年から運用)に記されており、これが慣習の起点の一つとして知られています。ただし「オックスフォードコンマ」という呼び名自体がいつ生まれたのかははっきりしておらず、確認できる古い使用例の一つはOUPの社史家ピーター・サトクリフが1978年に書いた本で、編集者F・H・コリンズが名付けたという話が紹介されていますが、これも諸説あるうちの一つにとどまります。皮肉なことに、OUP自身の文体規定はこのコンマの使用を推奨する一方、同じオックスフォード大学の広報向け文体規定は「使いすぎない」よう勧めており、AP通信やニューヨーク・タイムズも基本的に使わない方針を取るなど、名前の由来となった大学の中でさえ統一された答えは出ていません。
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❓まとめ
Q. コンマを一つ打つかどうかで、ある乳業会社は配送ドライバーたちに500万ドルを払うことになりました。英語の文章作法でいまも論争が続く「オックスフォードコンマ」、一体何がそんな大金を左右したのでしょうか?
A. はい、本当です。2017年、米メイン州の労働法をめぐる裁判で、第一巡回区連邦控訴裁判所は、残業代の適用除外を定めた条文に最後の項目の前のコンマ(オックスフォードコンマ)が無かったために意味が二通りに読めると認定し、配送ドライバー側に有利な判断を下しました。乳業会社オークハースト・デイリーは結局、127人のドライバーに合計500万ドルを支払う和解に応じています。