📖くわしく解説します
いまでは算数の基本中の基本である + と − ですが、この2つの記号が最初に活字として印刷された場面は、計算式ではありませんでした。1489年にライプツィヒで刊行されたヨハネス・ヴィトマンの商業算術書『商いのための手軽で巧みな計算法』で、+ と − はそれぞれ商取引の過剰(余り)と不足を表す記号として使われたのが、確認できる最古の印刷例だとされています。足し算・引き算という意味で使われ始めたのは、そこからさらに後のことです。
+ の由来については、比較的有力な説があります。数学史家デイヴィッド・スミスは、1456年のドイツ語の写本に "5 et 7"(5と7)のように et を詰めて書いた箇所があり、それが崩れて + の形になったと指摘しています。もっと早い例として、14世紀フランスの学者ニコル・オレームが1356〜61年ごろの著作ですでに et の略記として + に似た記号を使っていた可能性も指摘されていますが、現存する写本が後世の書写者によるものである可能性もあり、確定はしていません。
これに対して − の由来は、はっきりしていません。minus(より少ない)の頭文字 m に商人が横棒を引いた略記から生まれたという説がよく語られますが、学術的な史料で裏付けられているわけではなく、古代の記号から続く系譜を推測する説まで複数が並存している状態です。セント・アンドルーズ大学がまとめた数学記号史のデータベースでも、minus記号の起源は「不明」として扱われています。
計算記号として広く定着したのも段々とです。1514年にアントウェルペンのヒール・ファンデルフックが代数の式で使い、1518年にはヘンリクス・グラマテウスも使用。イギリスで一般に広まったのは、ロバート・レコードが1557年に著した『ウィットの砥石』以降とされています。もとは商人が樽に「満タンか不足か」を示すために描いていたという話もあり、今私たちが足し算・引き算に使うこの2本の線は、もともと帳簿と倉庫から生まれた記号だったというわけです。
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❓まとめ
Q. 足し算・引き算の記号 + と −。この2本の線、なぜこの形になったのでしょうか? 実はもともと算数のために生まれた記号ではなかったと知っていましたか?
A. + は、ラテン語で「そして」を意味する et(エト)を手早く続けて書いたときの崩れた形(リガチャー)が由来だというのが有力説です。一方 − の起源は、商人の帳簿の略記からきたという説などが語られますが、確証がなく今も不明のままです。どちらも最初は「足す」「引く」ではなく、商売の帳簿で余り・不足を示す記号として使われていました。