📖くわしく解説します
太平洋の巨大な嵐を指す typhoon。日常的に使う単語なのに、語源をたどると3つの言語系統が同時に候補に挙がるという珍しい単語です。しかも辞書のあいだでも「どの説が本命か」の足並みがそろっていません。
1つ目はギリシャ神話ルートです。Typhon(テュポーン)はゼウスに挑んだ巨人で、「風の父」とされる怪物。ギリシャ語 typhōn(つむじ風)にちなむこの語は、英語では1550年代にはすでに「つむじ風」を意味する語として使われていました。
2つ目はアラビア語ルートです。太平洋やインド洋の巨大な嵐を指す用法としての typhoon は、16世紀半ばにポルトガル語の文献に現れたのが最初とされ、アラビア語・ペルシア語・ヒンディー語で「大規模な暴風」を意味するtūfānに由来するとみられています(アラビア語ではノアの大洪水を指す語としてクルアーンにも登場します)。この tūfān 自体がギリシャ語 typhon から来たとする説もありますが、まったく別系統のセム語だとする説も根強く、ここでも決着はついていません。
3つ目が広東語ルートで、tai fung(大風)が英語での語形や意味に影響を与えた可能性が指摘されています。ポルトガル商人がインド洋でアラビア語話者から tūfān を聞き覚え、東アジアの海で大風(tai fung)に触れ、ヨーロッパにはすでにギリシャ神話の typhon という似た響きの語があった――3つの言葉が偶然近い音で同じ現象を指していたため、どれか1つを「正解」と断定できないのです。異なる語族の言葉がたまたま似た音に収斂した、語源研究らしい一例といえます。
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❓まとめ
Q. typhoon(台風)という単語、語源はギリシャ神話・アラビア語・広東語のどれ?
A. 実は1つに決まっていません。ギリシャ神話の怪物テュポーンに由来する説、アラビア語で「大嵐」を意味する tūfān に由来する説、広東語の tai fung(大風)に由来する説の3つが並び立ち、しかも複数のルートが影響し合って今の形に落ち着いた可能性が高いと考えられています。