📖くわしく解説します
「勝ち馬に乗る」を意味するjump on the bandwagonには、もっともらしい由来話がインターネット上に広く出回っています。1848年の米大統領選で、当時人気だったサーカスの道化師ダン・ライスが候補者ザカリー・テイラーを自分のサーカスの楽隊車(バンドワゴン)に乗せて練り歩き、それを見た支持者たちが「テイラーのバンドワゴンに乗ろう」と言い出したのが語源だ、という筋書きです。
ところがライスの伝記「Dan Rice: The Most Famous Man You've Never Heard Of」を書いた研究者デイヴィッド・カーライアンは、この逸話をはっきり否定しています。ライスは実在の人物で、テイラーが彼の舞台を観に来て楽屋で握手した記録はあるものの、選挙運動に加わった事実はなく、bandwagon という政治スラング自体、この逸話が語る1848年ではなく1880年代になってようやく定着したものだからです。ライスが後年みずから名乗った「大佐(Colonel)」の称号も、テイラーから授けられたという触れ込みでしたが、これも本人による作り話とされています。
bandwagon という単語自体は、興行師P.T.バーナムの1855年の自伝に「band wagon」として初めて文字で登場します。当初はサーカスの巡行で楽隊を乗せて練り歩く、ただの荷馬車を指す言葉でした。それが19世紀後半、政治家たちが集客力にあやかろうと自分の遊説にもバンドワゴンを使うようになり、支持者が実際にその荷台に飛び乗って練り歩く光景が定番化。「勝ちそうな側に加わる」という比喩としては1890年代までに定着し、セオドア・ルーズベルトの文章にも1899年の時点でこの意味での使用が確認されています。
つまり実際の歴史は、1人の道化師が一晩で流行語を生んだという派手な話ではなく、数十年かけてサーカスの慣習が政治文化に染み出していったという地味な経緯でした。もっともらしい人物名と年号が入った由来話ほど、かえって出どころを疑ってよいという好例と言えます。
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❓まとめ
Q. jump on the bandwagon(勝ち馬に乗る)は、19世紀の人気道化師が大統領選で広めた言葉? という有名な逸話がありますが本当?
A. これは作り話です。「1848年、道化師ダン・ライスが候補者ザカリー・テイラーの選挙運動に自分のサーカスの楽隊車(バンドワゴン)を使い、そこから jump on the bandwagon が生まれた」という逸話が広く語られていますが、ライスの伝記を書いた研究者はこれを史実に基づかない後世の創作と断定しています。政治用語としての bandwagon が実際に定着したのは1880年代以降のことです。